2011年02月19日

見られている

男は、その女の視線が気になって仕方がなかった。
電車に乗ったときに、たまたま目が合った。そのとき女は驚いたように、はっと目を伏せたのだ。妙に不自然な態度だった。

男は、少し離れた席に座り、悟られないように幾度か女を盗み見た。
どうやら彼女は、何気ないふりを装っているが、ちらりちらりとこちらをうかがっているようだ。
知り合いだろうか。いや、俺にはあんな美人の友人はいないはずだ。

顔を上げると、また目が合った。間違いない。俺を見ている。気のせいなどではなかった。
どこかで会ったのだろうか。知らず知らず恨みでもかったのか。
記憶をたぐったが、女の顔に見覚えはない。
好意の視線ではないことはたしかだ。一目惚れされるような柄ではないことは、自分でよく分かっている。

汚いものでも見るような目つき。なぜそんな目で見るんだ。俺がいったい何をしたっていうんだ。
そういえば俺は以前から、まったく悪気はないのに、突然人に怒られたり、嫌われたりすることがある。
俺の性格や行動に問題があるのかもしれないが、理由が分からないのだから、反省のしようがない。
どいつもこいつも、俺のことバカにしやがって。ちくしょう!
いい加減にしてくれ、ほっといてくれ。ああ、誰もいない土地で独りきりで暮らせたら、どんなに楽だろう。

駅に着いて電車を降りると、女もホームに降りてきた。
急ぎ足でこちらに向かってくる! 俺をにらみつけながら。
何か文句があるのか。

女は男の前に立ちはだかった。
男は腹をくくって、女を正面から見すえた。
俺は何も悪くない。ひるむものか……。
女は怒ったような、怯えたような顔で、言い放った。
「ちょっとあなた、何か用? 私のこと変な目でジロジロ見てたでしょう!」

(文・たかたまさひろ)
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